2011-01-26

[書評] 孤独の科学


孤独の科学 ジョン・T・カシオポ、ウィリアム・パトリック共著

本書は「社会神経科学」の創始者の1人によって書かれた、「社会的つながりがいかに重要か」を説く。
孤独感とはいかなるものなのか、孤独感がいかに有害か、孤独感を抱くのはなぜなのか、そして孤独感を克服するにはどうすれば良いのか。

この本のポイントは「科学的な裏付けがある」ということにある。
著者は、実験室で学生にいろいろな課題をこなしてもらったり脳波を測定したりする「横断調査」と、シカゴ市内の中高年の孤独感を測定し健康状態などを調べる「縦断調査」を組み合わせ、主観的な孤独感がいかに身体的な健康を蝕み、自己調節機能を奪いさらに他者と関わることが難しくなることをつきとめたという。
人間は独りでは生きていけず、群れていなければ生きていけない生き物だと著者は主張する。群れていたほうが生存確率が高まったので「群れていなければならない」個体が生き残った、という進化論的説明をしている。そう、孤独感は悪者ではなく、身の危険に警笛を鳴らしてくれるものなのだ、と。
では「孤独」を感じないためにはどうすれば良いのだろうか?
それは「他者に手を差し伸べる」ことだという。それも、手を差し伸べるだけは不十分で、相手が自分を「うまく利用する」相手ではないか人間に備わっている能力で見極めることも重要だ。

著者の主張に対しては賛否が分かれそうだが、非常に興味深い。孤独かどうかに関わらず、「人間同士の関わり」に関心を持っている人は1度読んでみると良いのではないだろうか。


2011-01-22

期待効用理論を恋愛に応用する


経済学には「期待効用理論」と呼ばれるものがある。
これは高校の数学で習う「期待値」を使ったもので、合理的な人は期待値(期待効用)が最大になる選択をする、というものだ。
期待値の復習をしよう。1万円を10%の確率で得られるが90%の確率で1円ももらえないのと、必ず500円をもらえるのではどちらが得だろうか? 正解は前者だ。1万円を10%で得られる場合の期待値は1万円×0.1で1000円だ。必ず500円がもらえる場合の期待値は500円×1なので前者のほうが得となる。

A君はBさんが好きだが、BさんはA君のことをどう思っているかわからない。A君はBさんに告白するべきだろうか?
それは、成功した場合の便益と失敗した場合の費用の差及び成功確率による。
どうすれば期待効用を計算できるだろう?
ここでは「告白する」と「告白しない」のどちらの期待効用のほうが大きいかだけ分かれば良い。
成功した場合の便益>失敗した場合の費用、と仮定すると、成功確率が50%以上あれば必ず「告白する」ほうの期待効用が「告白しない」場合の期待効用を上回る。
つまり、ざっくりとした成功確率(五分五分よりも高い確率であれば良い)さえわかれば良いのだ。
ティム・ハーフォードの『まっとうな経済学者の「お悩み相談室」』から、「親友を好きになってしまったが、告白することによって関係を壊すのは避けたい」という相談者へのハーフォードの回答から一部引用する。

すべてを失うリスクは避けながら、ことの真偽を明らかにする必要があるので、ここはストレートに彼女の友人に聞いてもらえばいいでしょう。
その好きな子から近い筋に確かめてもらえば「確率が五分五分を超えるかどうか」くらいはわかるだろう。

ちなみに、男性のほうが女性よりも恋愛対象とする範囲が2倍広く、男性から女性に告白する場合の成功確率は女性から男性の2分の1だそうだ。


2011-01-16

農業補助金によって安くなった野菜は消費者の利益になるのか


食料自給率が低いことは問題なのかへのコメントにこんなものがあった:

去年のタコもいい例ですがヨーロッパ圏で食べられるようになった事から大幅に値上がりしました。すぐ変動すると消費者にモロに当たります。
足りない時にどうしよう より最低でも準備をしておかないと間にあわないと思います。
輸入が減り国内需要が高まったとしても価格に影響が直に受けます。
農業だけ儲かっても会社の業績が落ち込んでしまいます。そして働いている人に影響が出るわけですからこれは雪だるま式になると思います。

では、外国からの輸入を制限して国内の農家に補助金を出したほうが、野菜は安くなり、消費者に優しくなるのだろうか?
例えば、今じゃがいもが1個50円だとする。これが何かの原因で70円になってしまった。これを知った消費者思いの官僚がじゃがいもの栽培に補助金を出して価格を30円まで下げようとした。
これは消費者にとってはありがたい話にも思える。これのどこがいけないのだろう?
問題は、農業への補助金は消費者の税金から出されている、ということにある。そして、これによって消費者の利益はプラスマイナスゼロどころかはっきりマイナスになるのだ。
ここにAさんとBさんとCさんの3人がいる。
Aさんはじゃがいも1個から80円、Bさんは60円、Cさんは40円の便益を得る。
じゃがいもの価格を市場に任せる世界では、Aさんは10円(80-70)の便益を得て、他の2人は得る便益よりも価格のほうが高いので買わないために得る便益は0円だ。
じゃがいもの栽培に補助金を出す世界だとどうなるか。3人には等しく40円(70円-30円)の税金がかかる。税金はじゃがいもを買うか否かに関わらず払わなければならないので、個々の「じゃがいもを買うかどうか」という意思決定には影響を及ぼさない。
次に3人がじゃがいもから得る便益を見てみよう。Aさんは50円(80円-30円)、Bさんは30円(60円-30円)、Cさんは10円(40円-30円)の便益を得る。
3人は70円のじゃがいもを買うよりも得をしただろうか?
3人は安くなったじゃがいもを買うことで合計90円(50円+30円+10円)の便益を得たが、補助金がなければ払わなくて済んだ税金120円(40円×3)が費用となるので、結局は30円の損となる。

以上を見ると、農家が農業補助金の撤廃に頑なに反対する理由も見えてくる。
農家が1個当たりのじゃがいもから得る収益は補助金の有無に関わらず70円だ。しかし、補助金がある(そしてその財源が税金という形で徴収される)ことによって、消費者のインセンティブが変わり、需要が増える。1個当たりの収益が変わらないのであれば多く売れたほうが農家の利益は増える。

現実には上記で行った計算よりも考慮すべき要因は多いが、こうして簡略化することによって多くのことが見えてくるのだ。

2011-01-06

学校の掃除の経済学 2


学校の掃除って必要なの? - Togetter
学校の掃除って必要なの? 2 - Togetter

学校掃除の目的を「学校をきれいにすること」とした場合にもっとも問題となるのは予算だ。業者に頼む便益が費用を上回るなら頼むべきだ。業者に頼む費用は簡単に分かるが、便益とはなんだろうか。業者に頼む便益とは、生徒が掃除していた時間及び生徒が掃除するよりもきれいな学校だ。その時間を他のことに充てた場合に生徒に身につくものと得られるきれいさが費用を上回っていれば良いということになる。(Twitter上で「なんでそんなものに税金を使わなきゃいけないんだ」といった反応があったが、問題なのは税金を投入するかどうかではなく、税金を投入するだけの価値があるかどうかだ。)
では具体的にその時間を何に充て、何が生徒に身につくもののだろうか。
それは、何を目的とするかによって異なる。
最もわかりやすいのは掃除の時間を勉強に充てた場合に向上する生徒の生産性だろう。もちろん、これ以外に「ある能力を身につけるために学校掃除より望ましい」ものなら何でも良いだろう。(計測は難しいだろうが)
そうして便益が費用を上回ることがわかれば業者に頼めば良いということになる。
次に問題となるのは、便益が費用を上回らない場合だ。その場合にも、現状の制度を追認してもいいということにはならない。できるだけ効率的な運用をするべきだ。
具体的には、@night_in_tunisiさんが提唱するような「掃除権オークション」なんかが良いのではないだろうか。
これなら掃除をする費用が最も小さい人がそれに見合ったお金をもらい、費用が大きい人がお金を払うことで全員が得をする。学校にお金を持ち込んではいけないというのなら別のものを貨幣として使用しても良いかもしれない。

次にその他の「学校掃除の意義」について考えてみよう。
「学校掃除がないと掃除の仕方を学ぶ場が無い」
基本的に掃除の仕方は家で学ぶものだろう(そして学校を卒業してから掃除するのも大半の人にとっては家であるため、家でやったほうが応用が利く)。学校で学ぶものだとしても、毎日やる必要はなく、週に1度程度家庭科の時間に教えてはどうだろうか。
「掃除ができない人間は社会に出ても使えない」
これは完全に経験則に過ぎない。経験則が役に立たないと言うつもりはないが、経験則に基づいて「だからお前らもつべこべ言ってないで掃除しろ」と全員に押し付けてもあまり効果は上がらない。そう思う親は子供に家の掃除をさせたら良いだろう。
「掃除したことによって後から何かしら学んだことに気づく」
これは何も語っていない。どんなことからだって学ぼうと思えば学べるだろう。しかし時間などの資源は有限なのでできるだけ「有意義」なことに使うべきだ。しかし掃除が本当に「有意義」な資源の使い道なのか実証の余地があるだろう。
「税金で無料で学ばせてもらってるのだから自分たちで掃除くらいして当たり前」
これは生徒の生み出す将来的な価値を考慮していない。生徒は学校で勉強することにより生産性が上がり、学校に行かない場合よりも多くを生み出せるようになる。そうして学校を卒業してから、生み出した一部を税金として納める。学校教育は生徒への投資であり、決して道楽ではない。
「自分で使ったところは自分で片付ける(掃除する)という意識を植え付けさせるため」
そういう人はきっと自分で歩いた道路を毎日掃除しているのだろう。その意識を植え付けさせるためにわざわざ生徒全員に掃除を強制する必要はない。

(生産的な)目的をはっきりさせた上であえて生徒に掃除をさせるのであればそれはそれで良いかもしれないが、目的意識なしに「とりあえず生徒にさせとけ」というのでは何も生み出すことなどできない(思考停止して服従する能力は身につくかもしれないが)。
税金で運用されているからこそ、目的をはっきりと定めた上で最も効率的で有意義な資源の使い方をするべきだろう。


2011-01-01

謹賀新年


あけましておめでとうございます。

昨年7月から12月までのPVトップ10:

  1. 子供を増やし虐待を減らすには
  2. 食料自給率が低いことは問題なのか
  3. 自分が将来を楽観する理由
  4. なぜ学校のトイレは汚いのか
  5. 価格はなぜ必要か
  6. [書評] 新書がベスト
  7. 対談@阪大
  8. テスト勉強なんてめんどいもんをやったほうがいい理由
  9. こんにゃくゼリー規制
  10. 学校の掃除の経済学

昨年7月から12月までの累計PVは17万5000を越え、訪問者のブラウザはFirefox 27%、Chrome 24%、Internet Explorer 20%、Safari 13%、モバイル 11%、Opera 1%、その他 4%で、OSはWindows 64%、Mac 16%、iOS 14%、その他 6%、国別だと日本 90%、アメリカ 6%、その他 4%でした。

アクセスランクに入っていないエントリの中でのお薦めは、誤解されやすい比較優位と絶対優位の違いを説明した「比較優位と絶対優位」、トイレを効率的に利用するための方法を書いた「トイレのダブルブッキングを回避する」、オーストラリアの経済学者ジョシュア・ガンズも似たような手法を提案している子どもをしつける方法「子どもに規則正しい生活を身につけさせるには」、教育の機会均等について論じた「教育の機会均等とは」です。

今年もできるだけ本ブログの更新頻度を維持しつつ質も上げていきますので、今後とも愛読よろしくお願いします。

お知らせ: 本日の日経新聞特集「跳べニッポン人」の「市場に活気を 経済救う知を伝授」に私の取材が掲載されています!