2013-09-08

[書評] アダプト思考

アダプト思考 ティム・ハーフォード著

1年前に読んでいたものの最近再読したのでご紹介。

どうすれば状況が目まぐるしく変化していく現代において成功することができるのか。本書によれば、そのためのステップはたったの3つしかない。

第一に「失敗をおそれずに新しいことを試す」、第二に「失敗はよくあることなので、失敗しても大きな問題にならないようにする」、第三に「失敗したときには、それがわかるようにする」ことだ。 (P.58)

だが、いざこの3つのステップを実行するとなると結構難しい。本書はそれを豊富な実践例―数少ない成功例とそれとは比べ物にならないほど無数の失敗例―を用いてわかりやすく説明している。

例えば、イラク戦争におけるアメリカ陸軍のトップダウン型戦略は、現場の状況に全く合っておらず、破綻していた。第二次世界大戦でチャーチルが作らせた戦闘機はナチス空軍の格好の標的となった。ODAによって途上国に作られたメリーゴーラウンド型のポンプはただ水を汲むのが大変になっただけだった。環境によかれと思ってしたことが実は逆効果なこともある。

以上はすべて失敗例だが、その逆に成功例もちゃんとある。
イラク戦争では勇気ある将校たちが上官の指示を無視して、現場の状況に最も適していると判断した戦略を取ったことで戦況は改善した。第二次世界大戦中の英国ではたった1億円程度の資金で作らせた戦闘機が後にナチスを震え上がらせることになった。途上国の子どもに虫下し薬を配布すると教育水準が上がった。

失敗したものは失敗するべくして失敗し、成功したものは成功するべくして成功したのだろうか? 中にはそのようなものもある。アメリカ陸軍はトップダウン戦略がうまくいっていないとわかっていながら戦略を変更しなかった。ケネディ大統領が有人月面着陸を確約した8年後、アームストロング船長は月に降り立った。
しかし、ほとんどの例は事前にはうまくいくかどうかわかっていなかったものだ。そんなとき取るべき最善の策は「とにかくやってみる」ことだ。実験を繰り返し、悪いものを排除し、良い物を残してさらに実験する。そうすることが成功への近道となる。

また、複雑な世界では、何が「成功」なのか見極めることも難しく、重要だ。例えば、地球温暖化への対策として何が最善かという問題だ。これは実験を繰り返して試行錯誤することができない。フィードバックを得る頃にはすでに取り返しがつかないからだ。地球によかれと思ってやったことが逆効果になることもありうる。そんなときには、適切なインセンティブを与えることが役に立つ。温室効果ガスに課税すれば、牛肉の消費が減り(牛は大量のメタンを放出する)、代替エネルギーの開発が進み、人々の合理的な活動の結果として温室効果ガスは削減される。

では失敗が許されない状況ではどうだろう? 原発や金融では、ほんのわずかな失敗が連鎖的に拡大して命取りとなることがある。そのような場所では、「1つの小さな失敗が連鎖して大きくならないようにする」ことが大切だという。原発においては、計器類の関係をわかりやすく示し、どこに異常があるのか一目でわかるようにしておくことで事故が起きたときにスムーズな対応ができる。また、金融危機の原因の1つは「多くの金融機関が複雑に関係し合っていた」ことだった。様々な安全策を重ねた結果、思わぬ結果を招くこととなった。そんな場合には、システムをできるだけ単純にし、金融事故が起きたときにも影響を受けない「安全地帯」を作っておくことで、たった1つの証券会社の破綻で金融システム全体が麻痺することを防げる。

個人が以上の「アダプト」の原則を実行していく際、最も大きな障壁となるのが「失敗を認められない自分」だ。人間はどうにかして自分の失敗を正当化しようとする。そこで必要となるのが「検証チーム」だと著者は言う。検証チームとは、肯定も否定も含めて、自分に迎合しない率直な意見を言ってくれる他人のことだ。検証チームによって人は自分の失敗を正し、それを成功に近づけることができる。

失敗するのは誰だって怖い。しかし天才でない限りは(あるいは天才であっても)、試行錯誤の結果としてしか成功しえないのだ。試行錯誤を奨励し、潔く失敗を認め、そこから前進することで社会も自分も豊かになっていくことだろう。

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